酩酊書棚

ここでは「お酒」をキーワードに私の蔵書からお気に入りの本を紹介していま
す。ただし酒場巡りの本とか酒についての蘊蓄本などストレートなものは紹介
するときりがないので除いてます。酒を感じる本、酒を飲みたくなる本、飲み
ながら読むとしんみりくる本など、幅広く取り上げていきたいと思っています。


踊り候え(鴨居玲/風来舎)
関西にも若干ゆかりのある画家鴨居玲のエッセイ集。酔っ払い等を好んで描い
た天才画家は文章もまた心に残る逸品揃い。姉鴨居羊子による追想文も心にし
みる。彼の絵が好きな人もそうでない人もぜひ。飲みながら読んでも楽しめる
はず。タイトルは平安時代の詠み人不明の詩から「憂きも/ひととき/うれし
くも/思い醒ませば/夢候よ/酔い候え/踊り候え」いい詩だと思いませんか。

おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒(江國滋/新潮社)
滋酔郎の俳号を持つ酒好き江國滋の闘病日記。食道癌という難病と闘った著者
の入院から死までの克明な記録。タイトルとなった句は格好いいが実は死の2
日前に筆記した辞世の句、癌への敗北宣言。誰もが避けられぬ死を前にした人
間の強さ弱さが飾らない文章からひしひしと感じられ感銘を受けます。全快し
て酒を飲みたかったろうな。余談だが娘の香織さんも素敵な作家になりました。

立ち呑みばなし(藤本猛/古書骨董「方」)※もう売っていない(00年12月)
これは比較的ストレートに酒、それも立ち呑みを扱ったもの。新梅田食道街の
北海や樽金盃の常連客である著者がそれらの店で一杯やる風景を見事なライブ
感覚で描ききる。関西立ち呑み人の粋を感じる名著。著者を知る人は彼に立ち
飲みを連れ回されてる気分になるかも。自費出版500部限定のため残部僅少
との噂あり。堂島のジュンク堂本店で入手可能とか。価格500円。急ぐべし。

人はなぜ酒を飲むのか(中村希明/朝日文庫)
そんなふうに聞かれても「そこに酒があるからだ」としか私には答えようがな
い。著者は精神科医。医者の立場からアルコール症について広く語っています。
胃潰瘍、肝硬変、慢性膵炎、高血圧、糖尿病。酒飲みにとっては恐ろしい話が
たくさん出てきます。しかし実例を豊富に紹介してあり読みやすいからか、つ
い読み進んでしまう。おいしいお酒を飲むために身体は大切にいたしましょう。

この金色の不定形な液体(田村隆一編/新潮社)
楽しみと冒険と題した全10巻のアンソロジーの中の一冊。やたら古本屋の均
一本コーナーでバラ売りされてるのを見かける。編者による冒頭のエッセイの
最初の一文「酒は人間にとって旅のような気がしてならない」がいい。他にも
幅広く、例えば禁酒法について記述した真面目なものなども収録。しかしもし
も今禁酒法があれば、私もここを読んでるあなたもきっと重罪人でしょうねえ。

(鈴木大拙/ちくま文庫)
僧が師匠にたずねた「悟りを体験する以前の人はどんな人間でしょうか」「わ
しらと同じ普通の人間だ」「では悟りの後はどうでしょうか」「頭は灰だらけ、
顔は泥まみれ」僧はさらに問うた「それで結局はどういうことですか」「ただ
それだけだ。たいしたことはない」う〜ん、禅問答が酔っ払いの会話に似てる
と思うのは私だけだろうか。国際的に活躍した著者が英語で書いたものの翻訳。

人参倶楽部(佐藤正午/集英社文庫)
佐藤正午は派手さはないものの確実に固定ファンをつかんでいる作家。実は私
も大好きなのだ。小さな地方都市にあるスナック人参倶楽部。そこに集う男女
の人間模様を優しく描いた心暖まる佳作。連作短編だがそれぞれの話がどこか
で繋がっている。ほろ酔い気分で読むのにはちょうどいい作品。とても優しい
気持ちになれるはず。しかし著者もきっとお酒が大好きなんだろうなあと思う。

会社の人事(中桐雅夫/晶文社)
詩集らしくない題名の詩集。現実的でわかりやすい詩が多くて飲みながら読め
るが心にも残る。「(前半略)三年、あと三年生きられるとわかったら、/い
ままでに読んだ本を読み返して、/もう一度、おなじ青春を経験するのがいい。
/その間は、人にやさしくしような。/夜の酒もほろ酔い程度にして、/日に
三時間は、詩を書いていたいな。」私にはきっとほろ酔い程度にはできないな。

戦中派天才老人山田風太郎(関川夏央/ちくま文庫)
忍法帖シリーズなど奇想天外な作品で知られるただものではない老人山田風太
郎のもとに著者が通いつめて書いた座談風物語。「アルコールの抜ける日はな
いから、これではアルツハイマーじゃなくてアル中ハイマーだ」と語り「スト
レスがない」という。とにかく彼の語る話すべてが興味深く面白い。すごいじ
いさんだ。ちなみに山田風太郎は但馬地方の出身。私と一緒なので少し親近感。

落語百選(麻生芳伸編/ちくま文庫)
春夏秋冬と季節ごとに分かれた4冊シリーズ。落語はテンポのよい会話が中心
になっていて聞くだけでなく読んでもなかなか楽しい。ほろ酔い気分にピタっ
とくる感じがする。例えばポカポカと暖かい春の日に、桜の咲いた公園で真っ
昼間から(どうせなら人の少ない平日の方がいいな)チビリチビリと酒でも飲
みながら、春編の「花見酒」などを読むのはきっとのどかで楽しいだろうなあ。

グラスの底に(伊集院静/集英社)
酒や男や想い出などをしみじみと感じさせる、著者お得意の心に残るごく短い
小品を集めたもの。これらはすべてサントリーオールドウイスキーの新聞広告
や雑誌広告のために書かれたものを元にしているだけあり、さすがに一杯やり
ながら読むとちょうどいい。広告上でもそうだが長友啓典のイラストもいい味
わいで文章にピッタリくる。黒一色だけでちょっと無骨な感じがとても好きだ。
馬敗れて草原あり(寺山修司/新書館)
本書他全7冊の競馬エッセイ。競馬はよく人生にたとえられるが著者の想いと
描写によって個性的な馬達がまさに人生を思わせる。なんだか馬も競馬ファン
も昔の方が味わいがあったなあとしみじみ。しかし「飲む打つ買う」というと
男の三大悪のように言われるがどれもほどほどに楽しめば逆に人生を豊かにし
てくれる…筈と私は思うがどうでしょう。もちろんあくまでもほどほどですが。
ホームレス日記/人生すっとんとん(福沢安夫/小学館文庫)
人生どうなるかわからない。著者の人生も順風満帆のようだったのに。絵を描
いて売りながら上野公園で生活を送った著者の言葉からホームレスの生活をう
かがい知ることが出来る。金があれば食べるより飲む。寂しさを紛らわすため
に酒を飲む。さすがにそういうのは辛いなあ。ちなみに著者のホームレス生活
は一年足らず。抜け出て未来が見えかけた矢先に急死。ほんと人生わからない。
古本めぐりはやめられない(岡崎武志/東京書籍)
まったく私も酒場めぐりと古本屋めぐりはどうしてもやめられない。裏通りに
ある小さな古本屋の均一台で探し求めていた思わぬ一冊を見つける喜びは、商
店街のはずれのなんてことはない居酒屋で貴重な地酒やとんでもなくうまい肴
に出会った時の喜びに通じるような気がする。この著者の一連の古本ものはど
れも好き。大阪出身なので昔の話になると関西の古本屋さんも登場して面白い。
李白100選(石川忠久/NHK出版)
シリーズになっている「漢詩を読む」の李白編。酒を愛した李白の詩はやはり
酒が登場するものがおおらかで面白い。有名な詩だが「山中与幽人対酌」など
はやはりいい。特に二行目「一杯一杯復一杯」という気持ちは酒飲みならよく
わかるはず。しかし昔から人は酒を飲んでうつらうつらしたり記憶を失ってし
まったり…人間と酒の関係は昔も今もそしてこれからも変らないんだろうなあ。
タクシードライバー日誌(梁石日/ちくま文庫)
いつも泥酔してタクシーに乗って運転手さんにはお世話になってるというか迷
惑をかけてるなあと反省。タクシードライバーってほんと過酷で不思議な職業
だなあと思う。とりあえず有名なのでこの作品をあげたがこの著者のものはエ
ッセイ小説に限らずどの作品も何ともいえない強烈なエネルギーに溢れていて
大好き。酒飲みのパワーも感じるし大阪のパワーも感じるんですよね。面白い。
大エロ捜査網(松沢呉一/青弓社)
私の書棚にはわりと真面目な本に混じってさりげなくこんな本もある。馬鹿馬
鹿しいタイトルにひかれて買ってしまった。今は少なくなったノーパン喫茶捜
査やらレディコミ漫画家捜査やらコスプレ捜査やらパンスト捜査やらナンバー
ワン風俗嬢捜査やら盛り沢山のルポである。読書の世界は奥深く酒の世界も奥
深い。そしてエロの世界もまたどこまでも果てしなく奥深いものなのであった。
秋山晶の仕事と周辺(秋山晶/六耀社)
仕事柄グラフィックデザイン関係の本もけっこうある。その中の一冊コピーラ
イター秋山晶の仕事をまとめたもの。軽く飲みながらパラパラ眺めてるとなか
なか楽しい。「野菜を見ると、想像するもの。」キューピーのコピーも有名だ
がやはり「男は黙ってサッポロビール」だ。三船敏郎がしぶい。ちなみにあの
印象的な手書き文字は黒澤映画のタイトル風に東宝の宣伝部の人が書いたとか。
できんボーイ完全版(田村信/ビー・エス・ピー)
昔少年サンデーの連載をリアルタイムで読んでいた記憶があるおバカなギャグ
マンガ。酒を飲む場合もそうなのだが時として何も考えない状態が幸せで贅沢
だと思うことがある。そんな時こそ頭をからっぽにしてこのバカなギャグに身
をゆだねようではないか。今読んでもバカバカしさは健在。あっけらかんと理
屈抜きに楽しもう。しかし単純な線ながら主人公のこの表情の豊かさはどうだ。
彼岸の駅(立松和平/福武書店)
表題作の主人公(さえないサラリーマン)がいつも行く居酒屋のいつも座る席
に別の客がいる。やがてその客は酔って居眠りを始める。別の席で飲んでいた
主人公も酔っていてそこは僕の席だと客に絡みだす。そんなシーンがある。し
ょうがない主人公だが少し気持はわかる。一人で飲む者は必ず自分の好きな席
を持っているもの。しかし立松和平の描く鬱屈した人物はなんか不思議によい。
方丈記(鴨長明/岩波文庫)
昔から本は大好きだったがどうも古典古文にはあまり馴染まなかった。しかし
この方丈記は最初に学校の授業で読んだ筈だがその時から好きだった記憶があ
る。私は隠居生活的な生き方に憧れを持っているのだが(ようするに俗世間か
ら一歩引いて仕事もせずに昼間っから酒を飲んでいたいんじゃね)そういう気
分にピッタリくるのかもしれない。有名な冒頭の一節はいつ読んでもいいねえ。
酒の肴があれば、呑むことにしよう(奥田継夫/編集工房ノア)
そそられるタイトルだ。私は酒が好きなので酒だけでも飲みたくなるがそれ以
上にちょっとした肴、豪華でなくていいがいかにも酒に合いそうなあてがある
と無性に酒が飲みたくなる。本書は目次をながめるだけで酒が欲しくなる簡単
なレシピ付きの四季別の肴読本。いや〜しかし旬の肴はたまらないすねえ。昔
の本なので店が今もあるかわからないが著者は大阪キタの酒場主人にして作家。
段ボールハウスで見る夢(中村智志/草思社)
96年1月に強制撤去された新宿駅西口地下通路のホームレスのルポ。しかし
私って結構こういう本が好きみたい。別に憧れるわけではないがホームレスの
気ままさにひかれるのだろうか。でもやはり現実は厳しい。本書にも様々な事
情で新宿に流れついた人たちを巡る心暖まるエピソードや面白い話も出てくる
が酒や栄養状態の悪さが原因か若くして亡くなる人が多くつらい話もまた多い。
発禁本(城市郎/福武文庫)
酒に関していうならば昔アメリカに禁酒法というバカげた法律があった。しか
し本も歴史を見れば谷崎潤一郎や志賀直哉などの文豪を含めかなり発禁になっ
たりしている。表現や言葉については時代だろうか今見てみればなぜこれが駄
目なのというのや(主に性描写か)逆に昔は平気だったものが今は駄目(差別
用語など)だったり。時代の流れや表現の自由といったことを考えさせる一冊。
わからなくなってきました(宮沢章夫/新潮社)
本書の他「百年目の青空」や「茫然とする技術」などこの著者のエッセイは何
冊か持っているがどれも一人で酒を飲んでる時に軽く読むことが多かった。ど
うでもいいんだがなんか気になる日常の話題が多く楽しい。なぜ渡辺さんはワ
タさんでなくナベさんという愛称で呼ばれるのだろうとか。記念だからという
理由でしょうもないことをする人についてだとか。ほんとどうでもいいんだが。
心をあやつる男たち(福本博文/文藝春秋)
酔うと気が強くなったり涙もろくなったり少しエッチになったり人間の心って
つくづく不思議で興味がつきない。で、本書は今は流行らなくなったが高度成
長期に勢いを伸ばした自己啓発をうたって管理職教育として導入されていった
セミナーの変遷を描いたルポ。あれも一種のマインドコントロールかなあ…し
かし現代人の心は脆いものだなあ。同著者の近著「ワンダーゾーン」も面白い。
寂しいマティーニ(オキ・シロー/角川書店)
全日空の機内誌に連載されていたカクテルをテーマにしたおしゃれなショート
ストーリー。同じ著者の酒に関するエッセーもいいが短い小説もなかなか味わ
いがある。一人酒飲んだくれ派の私はふだんカクテルなんか飲む機会が少ない
ので当然カクテルについてはまったく詳しくはない。だから一つ一つの話を読
みながら登場するカクテルをおぼえてみたり想像してみたりというのも楽しい。
これだけは言う(田山力哉/講談社)
本書は辛口シネマ批評とあるようにかなりズバズバと映画や監督や映画評論家
達を斬っているがその辛口さがある意味気持ちいい。私も酔っ払うとけっこう
言いたいことを言うがたしかに気持ちいいもんなあ。しかし中学高校の頃は毎
週のように映画館に行っていたのにいつの間にかたまにレンタルビデオを見る
ぐらいになってしまった。好奇心やら行動力が衰えてきたのかも…いかんなあ。
骨董屋からくさ主人(中島誠之助/実業之日本社)
いい仕事してますね〜ですっかり有名な著者のエッセイ。飲み屋や古本屋を巡
ってるとまれに思わぬ拾い物に出会ったりするが骨董の世界こそそんな拾い物
の醍醐味があるのではないだろうか。ちなみに私は焼き魚や串焼き等の焼き物
は大好きだが陶器磁器に関しては何もわからぬ。でも骨董を愛し趣味に生きる
著者の真直ぐな生き方がいい。ちなみにこの本は会社のゴミ捨て場での拾い物。
山桃寺まえみち(芦原すなお/河出書房新社)
もうくたびれたから店をたたむというおばあ様にかわって女子大生ミラちゃん
が大学を休学して奮闘する。大好きなお店を私が守るというわけだ。まあなん
てことはない軽い楽しい小説といってしまえばそれはそうなんだが登場人物が
なかなか魅力的で私はけっこう好き。きっとこんな店があれば通ってしまうな
あと思う。店の魅力というのは料理もあるけど店主や客が作る雰囲気だもんね。
火の車板前帖(橋本千代吉/文化出版局)
詩人の草野新平をあるじに昭和27年にオープンした居酒屋火の車。縁あって
その店を切り盛りすることになった著者によるエッセイ。しかしうまそうな肴
が並んでてそそられる店だ。さらにそこに出入りする常連達の凄まじいまでの
酔っ払いぶり。時代というかなんというかすごい。やっぱ文士と酒ってぴった
りくる組み合わせだ。私もこんな酔っ払えるなら居酒屋のあるじになりたいよ。
遊平の旅(青野聰/毎日新聞社)
この著者の本はけっこう持ってるしどれもいいのだが一番最近読んだのがこの
本なのでこれをあげておく。ほとんどの本の主人公に共通する魅力が彷徨う感
じというか漂泊というか放浪というか一つの場所にとどまれずに漂っていると
いうところだ。そんなとこに憧れに近いような共感を感じたり。もっとも私の
場合は漂うといっても夜の街を飲み屋から飲み屋へというだらしないものだが。
リチャード・ブローティガン(藤本和子/新潮社)
遺体のそばには酒瓶と44口径マグナム銃。忘れ去られ飲んだくれて最後には
拳銃自殺してしまったブローティガン。彼の多くの作品の翻訳者であり友人で
もある著者による心に残る一冊。そういえば日本でも代表作「アメリカの鱒釣
り」と数冊の詩集以外は新刊書店で彼の本は入手できなくなっている。しかし
死後20年近くたってこのような本が出るのは彼のファンとしてとても嬉しい。
蟒之記(小泉武夫/講談社)
難しい漢字だがタイトルは「うわばみのき」と読む。著者は醸造学、発酵学を
専攻する大学教授で酒や怪食についての著書も数多く有名。しかしこれはそん
な著者による小説集。江戸時代を舞台に希代の大酒飲みたちが大活躍。その飲
みっぷりはなんとも豪快で痛快だ。いかにも酒が大好きな人が書いた酒飲みの
小説で酒が好きな人ならば楽しめること間違いなし。あ〜飲みたくなってきた。
趣味は読書。(斎藤美奈子/平凡社)
趣味を問われたら私は酒と読書と答えるだろう。しかし酒なら場末的な小さな
店を好みイマ風の大型店は敬遠。読書でも量的には平均的な人より多いがほと
んどベストセラーは読まず。この本に出てくる読みもしないのに「読むに値し
ない」と決めつけるタイプかも。本書はそんな人達に代って小林秀雄賞受賞の
著者がわざわざベストセラー本を読んで解説してくれるという便利で楽しい本。
永くもがなの酒びたり(中村伸郎/早川書房)
著者は新劇ひとすじの俳優。小津映画にもたくさん出演しているようだが私に
はあまり印象になく誰だかよくしらないままにタイトルにひかれ古本屋で購入
した。でもえてしてそういうのがお気に入りの1冊になったりする。短いエッ
セイをまとめたものだが飄々としつつも深く味わい深い内容。お酒に関する楽
しいエピソードもいくつか。熱燗や永くもがなの酒びたり…と俳句もいくつか。
面目ないが(寒川猫持/新潮文庫)
猫好きの私としては著者の名前からして気になっていた。著者は大阪出身でバ
ツイチで目医者(廃業)兼うた詠みで本書は新聞に連載されたエッセイだがそ
の軽さがいいぞ。休日の昼間からビールを飲んでいるようなゆるい気持ちにな
れる。各エッセイのタイトルにもなっている猫持的短歌も軽い。「超ミニのギ
ャルが通れば/渋面をせんと思うが/どうしてもダメ」うんうんわかるわかる。
プレーンソング(保坂和志/中公文庫)
特になにか劇的なことが起きるわけではない。でも読んでるとどんどん引き込
まれてしまう。たしかに現実の生活では劇的なことなんてそんなには起きない
もんなあ。きっと私のように正月だからお盆だからクリスマスだから誕生日だ
からといっても特別な事はなにもしない、ただ毎日を飲んで好きな本を読んで
という平坦な生活を送っている人間にはこんなお話のペースが心地いいのかも。
禁酒宣言(上林暁/ちくま文庫)
坪内祐三編の上林暁の酒場小説集。古本に関する本等で私小説家として有名な
著者の名前は知ってたが作品を読むのはこの本が初めて。いや面白い。昭和2
0年代前半の作品が中心なので時代は今とだいぶ違うが変わらないのが酔っ払
いの姿。いいぞ!酔っ払い!最高!最後に掲載されたスタンレー鈴木氏の評論
の「飲み屋」という「宇宙」を共有するために酒を飲むという一節がいいねえ。
とことんおでん紀行(新井由己/光文社知恵の森文庫)
おでんって不思議。大根を煮ただけだと大根煮。コンニャクを煮ただけだとコ
ンニャク煮だがそのようなものをいろいろ一緒に煮るとおでんになる。おでん
の定義ってなんだろ。さらに地方によって味付けやネタが違うし。手軽な酒の
あてだが実は奥が深いのであった。本書ではおでんにはまってしまった著者が
原付バイクに乗って日本全国からさらに韓国や台湾までおでんを求め旅をする。
厄除け詩集(井伏鱒二/講談社文芸文庫)
コノサカヅキヲ受ケテクレ/ドウゾナミナミツガシテオクレ/ハナニアラシノ
タトヘモアルゾ/「サヨナラ」ダケガ人生ダ。この干武陵の勧酒という詩の訳
詩があまりにも有名なのだがそれ以外のもちろんオリジナルの詩もとってもい
い。なんともいえない味わい。それにしても詩の場合はさあ読むぞと気合いを
入れて読むよりほろ酔い気分でなにげにパラパラと読むほうが心に響きますね。
ビバ☆オヤジ酒場(かなつ久美/ワニブックス)
一口にオヤジ酒場と言ってしまっては悪いような超有名な名店も多く紹介され
ている。でもとりあえずそのような庶民的な大衆酒場に女性がチャレンジして
しだいにはまってゆくというのがいい!しかしグッチのバッグの中にゲロを吐
いたり見知らぬ客にいきなりカンチョーしたり記憶をとばしたりと酔いっぷり
もなかなか見事で面白いぞ。同じようなコンセプトで大阪版が出来ないかなあ。
三文役者のニッポンひとり旅(殿山泰司/ちくま文庫)
日本各地の遊廓跡をふらりふらりと巡る好色旅行。その界隈のなんともあやし
げな店で一人で酒を飲む楽しさよ。しかしまあ女は三十をすぎたら男の前に姿
をさらすなッだとかその自由気ままさぶりというかハチャメチャな言いたい放
題ぶりが愉快痛快。ええぞええぞ。こんな旅をしてみたいなあ。著者の役者と
してというよりも人間としての魅力がいっぱい。こいつはちょっとオモロイで。
金沢/酒宴(吉田健一/講談社文芸文庫)
解説には希有なユートピア小説とあるがまさにそんな感じ。その独特の文体は
なるほどなんじゃこりゃあ読みづらいやんけと最初は思ったのだけど読み進む
うちになんともいえぬ酩酊感のようなものを味わえる。心地よく酔える名酒の
ような作品。併録された酒宴も短いながら面白い話だ。ちなみに著者は酒豪と
して知られ晩年に病に倒れ入院してからも酒は止めなかったというからすごい。
鳴るは風鈴(木山捷平/講談社文芸文庫)
この本に入っている耳かき抄や下駄の腰掛やらこの本ではないが弥次郎兵衛な
どこの著者の短篇小説はなんかゆるゆるとしていいなあ。多くの作品は私小説
風でその主人公はほぼ著者の分身と言えるのだがこれがやたら酒を飲む。少し
時間があるとビールや焼酎をグビリ。あるいはちょいと一杯飲み屋へ。リタイ
ア後にでももう一度ビールでも飲みながら読みなおしてみたい。そんな味わい。
歩くひとりもの(津野海太郎/ちくま文庫)
自慢じゃないが私もひとりものだ。12歳からだから既に人生の3分の2以上
はひとり暮しだ。ひとりは楽しい。ひとり大衆酒場でしみじみ酒を飲むのは楽
しい。部屋でひとり好きな本を読むのも楽しい。あてもなくひとりでふらりと
旅に出るのも楽しい。そうなのだ私はひとりが大好きなのだ。だからこの本も
好き。しかし著者はこの本が出た少し後に結婚したんだってよ…おいおいだよ。
原民喜戦後全小説(上下)(講談社文芸文庫)
被爆した作家による作品は数多いがその代表格として原民喜を挙げておく。読
みながら人類が持った最悪のものの一つであろう核兵器について思う。私たち
はヒロシマを忘れてはいけない。広島長崎以後も実験場周辺やチェルノブイリ
等でヒバクシャが生まれていることも。毎日を楽しく飲んだくれられるのも平
和があってこその話だ。核の無い世界の実現を願う。戦後60年目の夏…合掌。
せどり男爵数奇譚(梶山季之/ちくま文庫)
古本好きの人ならおそらく知っているだろう有名な作品。とってもワクワクし
ながら楽しく読めた。著者はトップ屋として知られる敏腕ルポライターである
一方で小説では娯楽小説や大衆小説を書きまくる流行作家のイメージが強いが
もし45歳という若さで亡くならなかったらジャンルにとらわれぬさらに多く
の作品を残しどれほどの巨大な存在になったことか…それを思うとすごく残念。
夕べの雲(庄野潤三/講談社文芸文庫)
この作品を始めとするこの著者の自身の家庭をモデルとした家族小説の数々が
好きだ。なんていうことはないむしろ平凡な日々の生活を綴っているだけのよ
うだが読むととっても心が豊かになるように思う。ありふれた毎日の生活の大
切さというか有り難さ豊かさを感じさせてくれるといおうか。ああ願わくば私
の日々の生活いや日々の酒も私の心を豊かにしてくれるものであってほしいな。
大阪下町酒場列伝(井上理津子/ちくま文庫)
別にここで紹介するまでもないか。大阪の酒好き大衆酒場好きの人なら知って
いるであろう一冊。文庫本になって雑誌連載時より写真も増えて楽しい。よく
行く店もたくさん載っていてうれしいのだが新地の松久やわが地元野田の味好
など今はもうない名店もあって懐かしく思ったりもする。いい店はいい店の雰
囲気を保ったままたとえ代が代わってもいつまでも続いていってほしいと思う。
行きつけの店(山口瞳/新潮文庫)
趣味といえば飲み食いと読書しかないような私だから飲み食いの本というのも
大好きだ。飲み屋を紹介した本を見てそそられて実際に行ってみることもたま
にある。この本はさすがに山口瞳だけあって私のような者が一人でふらりと行
けるような店はほとんどないがそれだからこそ逆に想像できて楽しい。いずれ
私もこんな店に行けるようになるだろうか…いや年をとっても私は大衆酒場か。
町でいちばんの美女(チャールズ・ブコウスキー/新潮社)
今は亡き飲んだくれ詩人ブコウスキーの短編集。この本の出版後、日本ではブ
コウスキーが大ブレイクし凄い数の彼の本が出版されたが、やはり最初に出た
この本が一番おもしろいと思う。青野聰による翻訳もイケてる。チビチビ酒を
なめながら再読したいところだが現在私の手元にない。ずっと前に人に貸した
まま返ってこない。お〜い返してくれ…文庫化もされてるからまた買おうかな。

ロンメル進軍(リチャード・ブローティガン/思潮社)
高橋源一郎訳によるブローティガンの詩集。なかなかいい。「飲めや歌えで夜
が更ける/歓楽極まって哀切深し、か/きみはひとりで自分の部屋に戻ってき
た/この世界の一切は風が止んだ後の小枝のようだね」例えばこんな感じ。ブ
ローティガンは小説も好きだけど手軽に読める詩も好き。この本には原文もす
べて載っているから英語の勉強にもなるかも。土橋とし子のイラストもいい味。

声の残り(ドナルド・キーン/朝日文芸文庫)
私の文壇交友録と副題のついた著者と18名の作家との思い出。その中の永井
荷風のエピソード。著者が一度だけ会った荷風はズボンの前ボタン全開、前歯
は抜け落ちまことに風采上がらない。しかし彼の話す日本語の響きのあまりの
美しさに驚愕。が肝心の内容を著者はほとんど覚えていない。前日飲み過ぎ二
日酔いだったのだ。日本文学の権威にして若き日はこの有様。恐るべし酒の力。

酔どれ列車、モスクワ発ペトゥシキ行(エロフェーエフ/国書刊行会)
飲んだくれロードノヴェルと帯にはある。詳細なストーリーはもう忘れてしま
ったがやたらと主人公が酒を飲んでたなあ、という記憶がある。なるほど著者
と同名の主人公は物語2ページ目にして早くも飲み過ぎて記憶が曖昧になって
しまっている。旧ソ連で地下出版されたベストセラー。ロシアの文化や社会や
歴史その他の知識があればより楽しめる話らしいが…私にはとてもそこまでは。
百年の孤独(ガルシア=マルケス/新潮社)
こんな世界的な名作を取り上げるコーナーではないのだが本棚を眺めていて昔
初めて読んだ時の衝撃を懐かしく思い出したので…この何というか、めくるめ
く感のようなものはある種の酔いに似ていないだろうか。いい読書もいい酒も
心に何かを残してくれる。余談だが同じような名前がやたら出てくるので一生
懸命系図を書きながら読んだっけ。最近新訳が出たが何となく前のほうが好き。
ロック・ワグラム(サローヤン/新潮文庫)
サローヤンって最近人気がないのか。寺山修司お気に入りの本作も今は絶版の
ようだ。「男はがらくたである。しかも一生かけて、そのがらくたを地球上に
まき散らすのだ。どこへでもがらくたを持ち歩き、立ち止まってはがらくたを
積み上げる。がらくたの中で生活し、がらくたを愛し、大切にし、集め、その
上に乗って見張りをする。」物語に挿入された男は…で始まるフレーズが良い。
デルスー・ウザーラ(アルセーニエフ/河出文庫)
20世紀初頭シベリアの探検調査にあたった著者が密林で出会った原住民デル
スー。広大な大自然を背景に二人の交流が描かれる。分厚い上下2巻を読み終
えた後はずっしりとした感動で心が洗われるようだ。黒澤明がどうしても映画
化したかったというのもわかる気がする。いつも飲んだくれていると時として
自然と共棲するデルスーのような清浄な澄んだ心にふと憧れたりするものです。
リービング・ラスベガス(ジョン・オブライエン/角川文庫)
ラスベガスを死に場所に選び流れてきたとにかく酒を飲んでばかりのアル中の
男とヒモから逃げてラスベガスにきた娼婦の女との物語。映画化され主演のニ
コラス・ケイジがアカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した。著者はアルコー
ル依存症で苦しみ発表した小説はこれひとつのみ。そして映画化の契約完了の
二週間後に拳銃で自殺。享年34歳でした。私にはとても心にしみる一冊です。
緩やかさ(ミラン・クンデラ/集英社)
一番好きな海外作家は?と聞かれたらミラン・クンデラをあげる可能性はかな
り高い。映画化された「存在の耐えられない軽さ」や名作「不滅」や「笑いと
忘却の書」なども好きだがこの作品も大好き。タイトルもいい。めまぐるしく
情報がとびかうせわしない時代。もっと緩やかにいきたいものです。というか
毎日ゆるゆると酒を飲んでいられたら幸せだなあと思うぐうたらな私なのです。
騎手マテオの最後の騎乗(フリードリヒ・トールベルク/集英社)
20代に比べると最近酒の量が減った。まだ飲めると頭で思っても身体がつい
ていかず潰れたりする。過去の栄光…というと大袈裟だが。という訳で(どう
いう訳や!)主人公、かつて疾風のようなイタリア人と呼ばれ今は「ぽんこつ
になった元騎手」マテオは願う…もう一度だけ。落ち込んだ時に読むとやる気
が出てくる本。とても薄い本で文字も大きいので何度か読み返した好きな一冊。
モナ・リザが盗まれた日(セイモア・V・ライト/中公文庫)
飲酒を悪だと考える人もいるがやはり魅力がある。同じようにもちろん犯罪も
悪には違いないがそれが完全でうまくできていればいるほどやはり何ともいえ
ず魅力的なものだ。本書は1911年に起きたモナリザ盗難事件の真相を追っ
たノンフィクションながら米国推理作家協会賞を受賞した力作。世紀の大事件
の真の目的は何か。たしかに推理小説のように引き込まれるスリリングな一冊。
呪い(テネシー・ウィリアムズ/白水社)
著者は「ガラスの動物園」や「欲望という名の電車」などの戯曲で有名だがこ
れは小説集。いくつか好きな作品が入っている。工場の人員整理にあうルチオ
や彼の一番の友の野良猫や謎めいた酔っぱらいの老人など登場人物が少なくと
も私にとってはとても魅力的な表題作「呪い」や、詩人は蒸留酒を自家製造し
たが…という書き出しで始まる不思議に心惹かれる短編「詩人」など良かった。
スコットランドの黒い王様(ジャイルズ・フォーデン/新潮社)
人類誕生の地アフリカは憧れの地だ。360度全部地平線に囲まれた雄大な大
地で酒を飲んだらどんなにか気持ちいいだろうか。しかしまた部族間の争いや
奴隷貿易や欧米列強による植民地支配など暗い歴史も抱え込んだ地だ。本書は
ウガンダのアミン大統領の侍医となったイギリス人医師の物語。エンターテイ
メントとして充分に楽しめるとともにアフリカの歴史も考えさせられる力作だ。
旅の終わりの音楽(エリック・フォスネス・ハンセン/新潮社)
味というよりもなんとなくラベルのデザインやボトルの形に惹かれて酒を選ん
だりすることがあるがこの本は最初なんとなくタイトルに惹かれて買った。原
題の直訳は「旅路の果ての讃歌」だそうだ。大西洋に沈んだあのタイタニック
号の楽団員達。それぞれの楽士たちの人生が音楽のように奏でられる。600
ページ近い長編だがけっこう一気に読めてしまった。なかなか心に残る物語だ。
聖なる酔っぱらいの伝説(ヨーゼフ・ロート/白水社)
わりと短い作品だし決して幸せな話ではないとも思うが妙に心に残る。ヨーロ
ッパ各地を放浪し第二次世界大戦の足音が迫る1939年にパリで45歳にし
て逝った著者の死の直後に刊行された。ユダヤ人として困難な時代に生き晩年
は酒に溺れ泥酔することもしばしばだったという著者自身の生涯を思うとさら
に味わいが深まるかもしれない。ルトガー・ハウアーの主演で映画化もされた。
ヘミングウェイ/キューバの日々(ノルベルト・フエンテス/晶文社)
文字二段組で500頁近い大著。様々な人の膨大な証言や書簡から作家ヘミン
グウェイの姿が浮び上がる。強い男性的なイメージがあるが病気に関しては割
と臆病だったとか。彼の書斎にある「肝臓とその疾患」という本にはたくさん
アンダーライン…そんなエピソードも面白かったり。その他酒に関する記述も
多々。非情な文体と呼ばれる彼の作品からはうかがえない作家の姿が興味深い。
アンジェラの灰(フランク・マコート/新潮社)
著者のアイルランドでの幼少期の回想録。ピュリッツァー賞受賞にアラン・パ
ーカー監督による映画化。とくれば面白いはずと思い読んだがやはり面白かっ
た。アイルランドといえばパブにギネスビール。著者の父親は給料や失業手当
までパブで飲んでしまう酒飲みダメ親父だがそれがまたいい味。よく考えると
かなり悲惨なのだがどこか明るさを感じさせる不思議に心を打ついいお話です。
津軽(アラン・ブース/新潮文庫)
副題は失われゆく風景を探して。太宰治の「津軽」をリュックに入れて太宰が
辿った道をてくてくと徒歩で行く。著者はなかなか意見も鋭くて感心してしま
うのだがそれよりも私が気になるのは酒を飲み過ぎちゃうかっていうこと。昼
間から食堂でビール飲むし地元の人にもご馳走になったり楽しそうというかう
らやましいというか。でも40代で癌で亡くなってしまったんだねブースさん。
ハリーズ・バー(アリーゴ・チプリアーニ/にじゅうに)
副題は世界でいちばん愛されている伝説的なバーの物語。ヴェニスにある世界
的に有名なハリーズ・バーのお話。つっても私はこのバーのこと知らんかった
よ。でも創業者の息子によるこの本は面白かった。あっちこっち大衆酒場系を
フラフラ飲み歩くのが好きな私だがいつ行っても落ち着ける静かなバーっての
もええなあ。ちなみに訳者はバー好きでも知られるイラストレーター安西水丸。
ドリンキング・ライフ(ピート・ハミル/新潮社)
人気のコラムニストの自伝というか主に青春時代を中心とした半生記。タイト
ルから想像されるようにそこには常に酒がありなかなか痛快でとても面白く読
める。そして彼のすごいのは37歳でピタリと酒をやめてしまったこと。酒で
得るものより失うものの方が大きいと思ったのか。奇しくも37歳になった直
後に本書を読み終えた私だがこちらはまだまだ酒抜きでは生きてけそうにない。